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※現パロです。
鉢屋の過去回想なので続いているようないないような…←
苦手な方はご注意下さい!

















































俺は今年中学三年。
受験生だ。




「三郎!庄左ヱ門と乱太郎が勉強見て欲しいんだって」
「え、あー…おう、分かった」
雷蔵が帰りかけの俺を見つけ、学校のベランダから声を掛けるのに、俺は少しだけうんざりしながら返事をした。

小学生の頃から、ずっと可愛がっている後輩がいる。

黒木庄左ヱ門、猪名寺乱太郎。
元々、庄左ヱ門とは生徒会の先輩後輩で、乱太郎とは庄左ヱ門を通して仲良くなった。
昔から人一倍ひねくれていた俺は、二人の小さな友人にはいつも優しい心を分けて貰っている気がしていた。

『庄左ヱ門も乱太郎も本当に可愛いなぁっ!』

そんなふうに馬鹿みたいに猫っ可愛がりしていたのが、いつからだろう…。
まだ幼い彼等を疎ましく感じるようになったのは。



(…つか勉強って、庄左ヱ門いればわざわざ俺が教える必要なくね?)
路面の石ころを蹴飛ばして思う。
庄左ヱ門は俺がわざわざ教えなくても勉強は出来るし、乱太郎もそんな庄左ヱ門からちゃんと教われば…、無意識に苛々してくる自分の感情を最近押さえられなくなっている。
自覚はしているような、気のせいなような。

(そもそも俺、受験生だし…人の勉強見てる余裕ねぇし)

それは本当だった。
別に成績は悪くないが、目指しているのは私立の高校でそこそこレベルが高い。
普通科なら難無く入れそうだけど、俺が入りたいのは特進科だ。
当たり前の事だけど、受験を控えて周りも俺もピリピリしている。とにかくどうしようもなく苛々するのだ。
小さな後輩と遊ぶのは確かに癒されるが、自分の時間を削られているように感じてしまうのもいけない。
何から何まで悪循環。
こういう時は距離を置いた方がいい、なんて処世術…まだ修得できていない。



「いるかー?」
図書館に入り、ガラッと二階の会議室の扉を開けると、そこには乱太郎しかいなかった。
「鉢屋先輩こんにちはー」
「よ、庄ちゃんはどうした?」
「生徒会の仕事がまだ掛かるみたいです」
お日様みたいに明るい笑顔が俺を迎える。
不思議とその笑顔には苛々が少し緩和された。

「じゃ、先に始めるか」
「はーい」
テキストを広げる乱太郎の右に座り、上からそれを覗き込む。

一問一問、解説を付けて説明してやれば乱太郎はうんうん頷きながら俺を真っ直ぐ見る。
眼鏡越しに翡翠の瞳から寄越される熱心な視線を、俺はいつもより心地良く感じる。
「…あ、乱太郎、そこはここ読んでから解いてみ?」
「はい!」

庄左ヱ門はわりかしなんでも器用に熟してしまうから、四つも年下なのに、生徒会で一緒に仕事をしていた時は、毎回感心したし、指導もしやすかった。
しかしなんというか少し…先輩としては物足りなくて、逆に妙に危なっかしくて変なところの抜けている乱太郎は、俺の年上としての庇護欲とか優越感をとても満たしてくれる存在だった。
ひよこみたいにちょこちょこと、俺を慕って付いてくる乱太郎が、俺は大好きだった。



「あ!そういえば昨日、竹谷先輩と久々知先輩に遊んでもらったんです!」
黙々とテキストに向かう乱太郎が、パッと顔を上げて唐突に、嬉しそうに俺に話しかける。
キラキラ輝く瞳は、俺を見ているけど、俺を写してはいなかった。
昨日の思い出を、遊んでもらったあいつらを思い出しているんだろう。

なんだかそれが、ムカついた。

「…へー」
意識して注意しているのだが、声がワントーン低くなってしまう。
(じゃあ、勉強もあいつらに見てもらえよ)
意地悪な思考が頭をよぎる。

実はこれも最近良く感じる苛立ちの原因の一つで、乱太郎が俺がいる時に俺よりも庄左ヱ門を頼ったり、俺以外の俺の友達と一緒にいたりすると起こる。

(乱太郎はいつも俺を凄い凄いと追い掛けてくれてたのに)

この苛立ちは、庄左ヱ門が同じ事をしても起こらない。
乱太郎限定だった。

(あーぁ、やっぱり今日来るんじゃなかった)



「…あの、鉢屋先輩?」
「ん?」
「何か、怒ってらっしゃいますか?」
「!」
聡い乱太郎は俺の些細な変化に敏感に感づいてしまったようだ。
「すみません…私、何か」
「あ、いや…」
違うよ、と何故言えないんだろう。
俺は否定を口にすることもなく、ただジッと乱太郎を見つめる。
乱太郎は何も言わない俺にドンドン居心地を悪くして下を向いてしまう。

「あの、あの…すみません…私、ごめんなさい」
「理由わかんないのに、謝るなよ」
顔を上げた乱太郎の目が見開いた。
多分、今俺は凄く良い笑顔で笑っている。
「あの…ご、ごめんなさ…」
「…今日は帰るか、ごめんな乱太郎、ちょっと俺苛々してるんだ」
「あ、…あ、は、い…」
乱太郎は小さく頷いて机の荷物を詰めだした。
「庄左ヱ門には連絡頼むな、先出るわ」
は、い…とまた震える声で乱太郎が返事をしたのを聞いて、俺は足早に図書館を後にした。

思えばそれが個人的に乱太郎と交わした最後の言葉で、俺は(馬鹿なことをしたなぁ)と頭を叩いた。
その後は新生活に追われ、後輩達とも疎遠となって、乱太郎の事を思い出したのもこの前あんな衝撃的な場面を目撃して初めてだった。



(なのに、なんで)

今も昔も、こんなにも自分の気持ちを左右されるのは、乱太郎だけだったことに気づいてしまった。

++++++
言い訳

連絡待ち鉢屋が悶々していた一週間の間に思い出した過去でした。
グダグダですみません…;;

ここまで読んでくださってありがとうございました!