始まりの時



※年齢操作未来捏造です。
作兵衛視点で「冬季限定〜永遠の誓い」の話です。

苦手な方はご注意下さい。

















































なぁ、お前は知らないだろう?
俺はお前が考える以上に、とても狡い人間なんだ。





ずっと片思いをしていた。
二つ下の後輩に。
何時からなんてもう忘れてしまった。
多分出会ってすぐに好きになった。

そのくらい、ずっと。

「あはははっ!…ははっ、くく…もう、作兵衛先輩には敵いませんね」
うじうじとらしくなく悩んでいたらしい後輩に喝をいれたら、なんでか爆笑をされた。
涙目を擦る程に笑われて、想像していた反応との違いに逆にポカンとしてしまう。
しかし相手の口からでた「敵わない」の一言に「そうだ、そのまま押し負かされてしまえ」と内心思う。
多分お前は気付いてないけど、俺はお前が大好きだ。

それ以来乱太郎は何かと言えば俺に話や相談をしてくるようになった。
純粋にそれは嬉しかった、しかし同時にずっと抱えている不安があった。

気が付くと乱太郎はいつも、俺の級友の伊賀崎孫兵の事を見つめていた。
そして乱太郎は気付いていないが、孫兵も乱太郎を見ているのだ。
それの意味するところを、乱太郎自身が気付く事が、俺はずっと怖かった。
つまりは俺の不安と言うのは、乱太郎から孫兵への気持ちまでも相談されたらどうしよう、と言う事だった。

だって俺は乱太郎が好きなのだ。
今でさえ乱太郎が孫兵に気がある事は明白で大分ショックを受けているのに、それを乱太郎から直接言葉で伝えられたら、相談なんてされたなら…俺の心はきっと再起不能のボロボロになってしまう。

自分の保身ばかりで情けないが、仕方ないじゃないか…もう結果が見えてしまっている恋なのだから。
今の少しの間だけでも、乱太郎から1番頼られている先輩として自惚れていたいじゃないか。



そんな俺の考えを一変させる事件が起きる。
俺はとある忍務で初めて人を殺めた。
殺人の恐怖と異常な達成感に耐え切れず、長屋に戻る手前…中庭の陰で身を縮こませていた、そんな時。

「…ぁ、あの、作兵衛、先輩?」

偶然にも、声を掛けてきたのは乱太郎だった。
俺はまともじゃない意識の中、それが乱太郎だとわかると、酷い自己嫌悪に襲われた。
(どうして!?なんで乱太郎が!?)
こんな俺を見られるのが嫌だった。
血に塗れ、情けなくも取り乱してそれでも頭の中は罪悪感と同じくらいの達成感と高揚感を感じる最低な俺。
(まだ殺人の恐怖に怯えているだけだったなら、人としての救いもあっただろうに。)
見られたくない、嫌われたくない、気付かれたくない、怖い、知られたくない、怖い、失望されたくない、怖い!

しかし乱太郎は、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか…取り乱す俺を抱きしめた。



「大丈夫、です…よ」



いったい何が大丈夫だと言うのだ。
(お前だって怯えているじゃないか)
俺の背に回した手が小さく震えている。
それでも乱太郎はまるで小さな子供をあやすように、背中を優しく摩りながら呪文のように何度も俺を慰めた。
大丈夫、大丈夫と、何度も、何度も。

「私が、居ます」

傍に、ずっと。
それはもしかすると睦言のようなその場限りの甘い囁きだったのかもしれない。
だって乱太郎は俺が錯乱していると思っているし、乱太郎自身相当気が動転していた事だろう。
しかし俺の頭は、何時しか乱太郎の腕の中で彼の心音を聞く内に落ち着き、その言葉に並々ならぬ感動を覚えてしまった。

(なんて事だ、最低だ、人一人殺しておいて俺は勘違いかもしれない自身の幸せに胸を震わせている…!)

乱太郎が思う程俺は真っ当でも真っ直ぐでもなく、狡いし小さい、利己的な人間だった。
言わせて貰えばそれは普通の人間であれば誰しもが持ち合わせてはいるけれど、しかし乱太郎には、俺自身の事は綺麗な存在のままで意識していてほしかった。
(だって俺は、乱太郎の頼れる先輩で在りたかった!)



「…ぁり、がと…な」



他の言葉なんて見つからなかった。
俺は乱太郎の傍にずっといれるのなら、なんでも良い、ただ、それだけを思ってしまった。
(最低だ、最低、こんな時に…俺は、最低、だ)





それから数日後、またしても偶然二人きりになった。

「本当、に…ずっと傍に、居て…くれんの?」
途切れ途切れに駄目押しで出た言葉。
狡い、俺は狡い。
乱太郎が優しいのを俺は良く知ってる。
それでいて言葉で囲いを作る。

「はい、先輩の傍にいますよ」
「俺、本当情けねぇぞ?いいのか?俺、お前がいないと…駄目なくらい、お前の事…好きになっちまうぞ?」
嘘、もうなってる。
どうしようもないくらい好きになってる。
だから、だから…欲しい。けど、
(お前は本当にそれでいいのか?)
お世辞にも広いとは言い難い心の隅に、ほんの少しだけ残った良心が痛む。
(お前、お前…本当は孫兵が好きなんだろ?気付いてないみたいだけど…本当に、いいのか?)
誰に問い掛けているのか、正直分からない。
でもそれを思うと、同時に苦しくて切なくて、泣きたくなるくらいに、でも俺だって乱太郎が好きなんだ!ともう一人の俺が叫ぶ。

もういい、もういいじゃないか。
乱太郎は俺といると言ってくれたんだ。だから…
孫兵への気持ちに気付く前に、本当に俺を好きになって仕舞えばいい。

何度も何度も俺は言い訳を繰り返して、乱太郎に呟く。
「好きだ、乱太郎…ずっと一緒にいてくれ」
もはや懇願。

はい、と優しく微笑む乱太郎に、初めての口付けをした。




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言い訳

作兵衛をこう…悪者にしたくないけど乱太郎の幸せを考えると悪者になっちゃう…そう思ったら進まなくなってしまって放置していたのがなんとか纏まりました…←聞いてない
微妙ですみません…↓↓↓
まだ続きます↓↓↓

うわぁあんっ!プリーズミー表現力!泣

此処まで読んで下って本当にありがとうございました!