かくれんぼ



※原作18巻ネタバレを若干含みます。
















































気付かれたくない。
気付いて欲しい。

深入りしたくない。
深入りして欲しい。

相反する二つの気持ちが…



常に君を求めていた。





乱太郎と鉢屋が初めてお互いを認識したのは、学年混合オリエンテーションの時だ。

自身の変装によって乱太郎としんべえを驚かせていた鉢屋だが、二人は相変わらずの適応力で、さっさとそれに慣れてしまった。

(つまらない…)
そう内心思っていた時に、新たな標的が現れ嬉々として変装をして相手を驚かせた時だった。

「鉢屋先輩、よかったですねー」

驚いて随分とリアクションの大きかった相手に気を良くしていたら、不意に隣にいた乱太郎に手を取られ笑顔でそう言われた。

馬鹿にされているのだろうかと、一瞬頭を掠めたが彼は純粋にその言葉を発したのだろう。

乱太郎の笑顔はとても優しかった。

「うん…」

悪戯成功の喜びを、四つも年下の後輩に悟られた事に僅かな照れ臭さを覚えたが、こうも敏感に自身の感情を察せられたことは初めてで、なんだか嬉しく感じた事を覚えていた。

乱太郎は人の気持ちに敏感だ。

(それは決して俺だけにではないけれど、あの時俺は確かに…)
(君に理解して貰えた喜びに胸を高鳴らせていたんだ)



鉢屋は変装の為に人間観察を趣味としているところがあったが、基本的には他人と深く係わり合うことを良しとはしていなかった。
それは己の変化の術をより完璧にする為と忍として生きる為の自己防衛でもあった。

いつでもどんなに近くに居ても、心は少し距離を置き遠巻きから傍観するように物事を見る。
それは忍としては素晴らしい姿勢であり、人としてはとても淋しい行為だった。
それを自身でも自覚している為か、常に鉢屋には矛盾する二つの意見が存在していた。

変装は完璧でありたい。
誰にも気付かれたくない。
(でもその存在が、鉢屋三郎であることをわかって欲しい)

本音も本心も核心に近ければ近い程、人に見せてはいけない。
弱音や弱点を理解されてはいけない。
(胸の奥の悲しみや喜びや焦燥や苦しみを、誰かに理解して欲しい)

矛盾する想いは常に前者が後者を打ち消し、表に現れることはない。
しかしその度後者の想いは日毎強く、大きくなっていく。





「乱太郎くん」

今日も不破の顔を借り、一人園内を歩く乱太郎に声をかける。

「あ!不破雷蔵先輩!」
にっこりと笑う乱太郎に、胸がざわつく。
変装がばれていない喜びと、自分は本当は鉢屋三郎なのだと気付いて欲しい焦燥。

「今日は一人かい?」
不破の笑顔で語りかければ、乱太郎は疑うこともなく元気に返事をする。

「はい!さっきまで委員会の当番だったんです」
今はきり丸としんべえを探していて…
そう言ってまたふわりと微笑む無邪気な存在。
(どうしてこんなにも、誰に対しても温かく接しられるのだろう…)

「そうなんだ」
どうかしようとしたわけではない、ただ無性に乱太郎に触れたくなって、鉢屋は乱太郎の頭を撫で、そのまま乱太郎の手を取った。

「雷蔵、先輩…?」
「うん、何?」

「…鉢、屋先輩?」

「…えっ」
唐突に乱太郎が驚いたように不破の姿をした鉢屋を見上げる。
「あっあ、えっと…すすすみません…」
間違えていると思ったのだろう、乱太郎と同じく驚いた顔をした鉢屋に、乱太郎はすぐに謝る。

「いや、うん…当たり」

瞬時にしんべえの顔に変装し、もう一度不破の顔に戻して、鉢屋はばつの悪い顔をして笑う。

「どうしてわかったんだ?完璧に雷蔵に成り切ってたつもりだけど…」
見破られたことにまだ胸がドキドキしていたが、鉢屋は平静を装い思ったことを素直に聞いてみる。
「その…体温が、手の温度が」
間違っていなかったことに一先ずホッとした様子で、乱太郎は困ったように笑いそう呟いた。

「雷蔵先輩の手よりも鉢屋先輩の手って、少し温度が高いんです」
そう言われて鉢屋は自身の手をまじまじと見た。

「それだけ?」
「は…はい、それだけです」
だから自信が無くて、と乱太郎はまた笑う。

「でもこれで確信しました」
もう雷蔵先輩と鉢屋先輩を間違えません!
今度はにっこりと勝ち誇ったように笑う乱太郎に、鉢屋は思わず吹き出し、そのまま声をあげて笑う。

「え?え?」
急に笑い出した鉢屋に訳が分からず、乱太郎が戸惑うように鉢屋を見上げれば、見たこともないような切ない瞳で微笑まれる。

「ありがとう、乱太郎」

「…え」

そして乱太郎の頭を一撫ですると、鉢屋は乱太郎を置いてもと来た道を走り出す。

「鉢屋先ぱーい?」
置き去りにされた乱太郎が自身を呼ぶのがわかったが、振り返らなかった。

嬉しくて、泣いてしまいそうだから。



初めてだった。
変装を見破らずに、自分を鉢屋三郎と認められたのは。

変装は完璧。
でも乱太郎は俺を分かる。

乱太郎だけが分かる俺の温度で。


不思議な気持ちだった。
いつもなら、変装を見破られたら焦ってその欠点を補う術を考えるのに。
乱太郎の言うそれはあまりに曖昧で、決して乱太郎以外の者には気付かれないような事で。

嬉しかったのだ。
悔しさや焦りのない敗北。
長いかくれんぼをしていて、寂しさを堪えていた時に鬼に見付けて貰えたような、不思議な感覚。

胸を満たす、幸せ。

誰でも良いんじゃない。
乱太郎だから、こんなにも嬉しいのだ。

きっと初めて会ったあの時から、俺は君が特別だったんだ。
君なら分かってくれる気がしていたんだ。



乱太郎が、好きなのだと…
鉢屋はそこで初めて気が付き、
「参ったなぁ…」

そう空を見上げて呟いた。






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言い訳

はい、鉢屋のキャラと一人称が定まりません!←土下座
飄々としているくせに、実はガラスのハートとかだと良いと思います(妄想
18巻の内容ですが微妙に乱太郎のセリフ変えててすみません…
というか大分こじつけ臭い(いつもだよ

はい、すみませんでした…(土下座

此処まで読んで下さって本当にありがとうございました!