冬季限定



(冬の伊賀崎先輩は綺麗だ)



春から秋にかけての伊賀崎先輩は病気のせいもあってアレだけど(生徒達の中では伊賀崎、田村、久々知…歴代の先輩達は病気なんだと言う事でまとまっている)、猛毒を有するペット達が冬眠してしまう冬場は思考も行動もまともで少しばかり取っ付き難いくらいだった。
容姿は普段のあの性格のせいであまり知られていないがとても整っており、仕草や言動も他の生徒達と比べると大人びていた。

猪名寺乱太郎と言う少年は絵を描く事を趣味にしていた為、美しいものが好きだった。
そして美しい風景、美しい物、美しい者、それらにふよふよと釣られて付いて行ってしまう悪い癖があった。



(あ、伊賀崎先輩)
乱太郎が伊賀崎を見付けた時、伊賀崎は一人で読書をしていた。
場所は三年長屋の中庭に面した廊下だった。
中庭では組の仲間達と遊んでいた乱太郎は飛んで行ってしまったボールを追い掛けてここまで来たのだ。

季節は冬で、廊下での読書は寒そうだったが、伊賀崎は気にすることもなくパラパラとページをめくる。

(伊賀崎先輩、綺麗)
描きたいなぁと、乱太郎は思う。
乱太郎は美しいものを描くのが好きだ。
自分が見て美しいと感じたものを絵に残すのが好きだ。
乱太郎はボールを拾ったまま立ちつくし、しばし考える。

(描かせて下さいって言ったら、先輩…嫌がるかな)
余談だが、乱太郎がこの学園に来て描きたいと思った人物は伊賀崎が初めてだった。
景色や物はたくさん描いたが、描いてみたい人は初めてだった。
これが例えば六年生の立花や四年の平や三木だったなら、頼めば喜んでモデルをしてくれることだろう(四年の二人なんてきっと頼んでもいないのに服すら脱ぎだすことだろう)。
しかし乱太郎が描きたいのは伊賀崎孫兵ただ一人なのだ。

「おーい!乱太郎!」
突然声を掛けられて乱太郎が振り返る。
「っはい!」
決して悪いことをしていた訳ではないのだが、びくりと跳ね上がる肩を押さえられなかった。

「ボール、見付かったか?」
そこに立っていたのは伊賀崎と同じ三年の富松作兵衛だった。
「あ、はい、ありました…けど」
自分は同級生達と遊んでいたはずなのに、何故富松先輩がいるのだろう?と乱太郎が首を傾げる。
そんな乱太郎の様子に気持ちを悟った富松は少しだけ照れたように頭をかいてから答える。

「お前がボール追っ掛けて三年長屋に行くとこが見えたんだよ」
それで何故追い掛けて来る必要があるのか、一瞬考えるが、おそらくは中々戻ってこない自分を心配してくれたのだろう、と納得する。
彼はぶっきらぼうに見えてとても世話焼きだ。

「ありがとうございます」
ニコリと笑ってお礼を言えば、何故だか富松は顔を背ける。
耳が赤い気がするのは気のせいだろうか。
「べっ別にお前の為とかじゃなくてだな、その…お礼を言われる筋合いなんて」
ぶつぶつと呟く富松(所謂ツンデレと言うカテゴリに入る)をスルーして、乱太郎はもう一度伊賀崎の方を見た。


「…ぁ」
目が、あった。
一瞬だが伊賀崎は乱太郎を見ており、そして二人の視線は交差した。
ジワジワと自分の頬が熱くなるのを感じて、乱太郎は富松に「そっそれでは私戻ります!」と言ってボールを抱えて走りだした。

一瞬目が合って、伊賀崎のそれはすぐに手元の本へと直されてしまったが、伊賀崎が自分を見ていた事にドキドキした。
きっと富松とのやり取りで大きな声が出てしまったから気になったのだと思う。
それだけだとはわかっている。

でも、目が合った事が嬉しかった。

ドキドキ、する。
乱太郎は走りながら白い息をはいて、乱太郎を待っていたきり丸に飛び付いた。
恥ずかしい事を皆にばれないように、顔が赤いのがばれないように、きり丸の胸に顔をうずめた。

(先輩、凄い…綺麗、ドキドキ、とまんない)



乱太郎の行動にきり丸も真っ赤になったこと、一緒に遊んでいた兵太夫と団蔵が声にならない悲鳴を上げた事を、乱太郎は知らない。


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言い訳

青春っぽい話しが…書きたくて(はい、挫折してます←
誰か→乱→孫兵…凄く好きかもしれない!←聞いてない
浮気部屋に孫兵絡みの話を置きたいです←←←

此処まで読んで下さって本当にありがとうございました!