怪我の功名
事の始まりは六年生の野外実習。
しかし実習とは関係なく、四年生が掘ったタコ壷にはまり右手を負傷した伊作が、これまたその負傷とは関係なく風邪を拗らせ、一人実習を休んだ日の事だった。
「伊作先輩、大丈夫ですか?」
伊作の額の手ぬぐいを取り、水に付け絞り、また乗せる作業を続けながら、一年生の保健委員猪名寺乱太郎は心配そうに伊作を覗き込む。
「うん、ありがとう…乱太郎の看病のお陰で大分楽になったよ」
そうは言ってもまだまだ完治には程遠く、力無く微笑む伊作に乱太郎は自分の方が辛そうに眉を寄せる。
そんな乱太郎に伊作はよろよろと手を伸ばし、その頬を優しくなぞる。
「心配してくれてありがとう…確かにまだ少し辛いけど、こうして乱太郎と一緒にいられるから私は幸せだよ」
同室の食満が野外実習で明日の朝まで帰ってこない為、看病は六年長屋の伊作の自室で行われていた。
乱太郎は新野先生から伊作の看病を頼まれ、今夜この部屋に泊まることになっているのだ。
「私も伊作先輩と一緒にいられるのは嬉しいです、でも早く良くなって下さいね」
「うん、頑張るよ」
そう言い見つめ合い、二人でくすくすと笑った。
「何か私にしてもらいたいこととかありますか?食べたいものとか…」
なんでもとはいきませんが、できることなら…と、乱太郎が伊作に問い掛ける。
「えっ!?…う、うーん」
乱太郎が何の含みもなく、ただ自分を気遣かってそう言ってくれているのは重々承知しているが、伊作とて思春期真っ盛りの健全な15歳だ。
好いている相手から「なんでもしてあげる」だなんて美味しいシチュエーションに、邪ま考えが過ぎってしまう。
「じゃ…じゃあ、乱太郎から口…付けして、欲しい…なぁ、なんて」
とりあえず浮かんだ邪まの中で1番まともそうなものを上げてみる。
「え…えぇっ!?な…なんですかそれ…っ」
聞いた途端、顔を真っ赤にしてうろたえる乱太郎に、伊作はもう一押しとばかりに…
「駄目かい?…どうしても?」
と病人特有の頼りない縋るような瞳で乱太郎に問う。
当然面倒見の良い乱太郎が、そんなお願いを断れるわけがなく…
「わ…わかりました」
と顔を更に真っ赤にして俯く。
それに伊作は布団の中で小さくガッツポーズをする。
乱太郎はおずおずと伊作の横になる布団へ近付き、ゆっくりと伊作へと唇を寄せる。
恥ずかしいのか眉を寄せて耳まで真っ赤にしている乱太郎に伊作は思わず頬が緩む。
可愛いなぁ…
チュッと小さな音を残し、ほんの一瞬で口付けは終わる。
「…」
目を開ければ、眼鏡の奥で羞恥に潤む乱太郎の瞳があった。
その様子に風邪のせいではなくゾクりとする。
伊作の中で先程頭を過ぎった邪まな思考が呼び起こされる。
「乱太郎…もっとして」
えっ…と更にうろたえる乱太郎だが、伊作に優しく微笑まれると何も言えなくなってしまう。
そしてもう一度、今度は先程よりも長く伊作へ口付ける。
普段こうして二人で甘い雰囲気を出していると、当然のように邪魔が入る。
しかし今夜奴らは野外実習で帰ってこない。
今夜は、絶対に邪魔は入らない…。
触れていた乱太郎の唇がゆっくりと離れる。
伊作はそれをさせまいと、怪我をしていない左手で、ぐっと乱太郎を自分の方へ引き寄せた。
「えっわ…伊、作せんぱ…っ」
んんっ…と乱太郎の声は唇を塞がれくぐもった音へ変わる。
突然の事に驚き少し開いた口内へすかさず舌を滑り込ませる。
「んう…っ」
いつもより熱い伊作の舌に、あぁやはり熱があるんだなぁ…と乱太郎はぼんやり思う。
「ん…ふ、んあ…んんっ…」
舌先を舐めたり上あごをなぞったり、己の舌と乱太郎の舌を器用に絡めながら伊作は乱太郎の熱を高めていく。
「いっ…さく、せんぱ…ふ、ぁ」
途切れ途切れに名を呼び胸を叩く乱太郎に、ようやく伊作が解放すれば、乱太郎の呼吸は乱れ濡れた翡翠が眼鏡の奥に覗く。
「もっもう…!」
抗議したいのにすっかり腰が砕けて何も言えない乱太郎をまた引き寄せ、伊作は甘えた声を乱太郎の耳へと吹き掛ける。
「ねぇ乱太郎、もっとしたいな」
「だっ駄目です!風邪が…」
びくりと肩を竦め、相変わらずの涙目で反論する乱太郎から、ゆっくりと眼鏡を外し、伊作はいつもの優しい笑みを浮かべる。
「熱がある時は汗をかいて体温を下げるのが良いって、乱太郎も知ってるでしょう?」
暗に自身の病気は理由にならない、と乱太郎に目で訴える。
「でっでも先輩…右手の捻挫も…」なおも食い下がる乱太郎に、伊作はにっこり笑って告げる。
「乱太郎が手伝ってくれれば大丈夫だよ」
そう言って伊作は妖艶に微笑む。
終
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え…えへ!
裏に続きます。
なんか異常に長くなってしまって…てか前フリ長っ!(土下座
温いですが楽しんで頂ければ幸いです。
私は凄い楽しいです!←殴
ここまで読んで下さってありがとうございました!