指切り



※年齢操作未来捏造です。
苦手な方はご注意下さい。




















































貴方の為なら、死ねると思った。



「久しぶり、」
町で四年ぶりに見かけたあの子は、自身の在学中よりも一層美しく成長していた。

「お久しぶりです、タカ丸さん」
ニコリと微笑む柔らかい雰囲気とか、胸をじわりと温かくさせる優しい声とか、以前感じていたトキメキよりも、更に大きな衝撃を受ける自分に、思わず笑ってしまいそうになった。

「今日はどうしたの?」
「ちょっと、仕事で」
言葉を濁す彼に僕は内容を察し、そう、と笑って答えた。
「長引きそう?宿は?」
「多分、二、三日で片付くと思います…宿はこれから、」
「なんだ!じゃあうちにおいでよ」

下心が無かったわけじゃない。
でも、僕の口からは自分でも驚くほどにすんなりと、その言葉が出た。

「そんな、悪いです!」
「乱太郎くんが迷惑じゃなかったら、僕は来て欲しいな」
ニコリと笑って、僕が右手を差し出すと、彼は怖ず怖ずと僕の手を取った。

「…よろしくお願いします」
「ありがとう」
「なんで、タカ丸さんがお礼を言うんですか」
クスクスと微笑む彼に、以前の幼い面影は見つからない。

なんというか、四年ぶりに見た乱太郎くんは艶がでた。
声や、仕種や、髪や唇、その全てに。
成長したから?
そういう訓練でもした?
それとも、誰かいい人でもいるんだろうか。

チクリと痛む胸に気付かない振りをして、僕は乱太郎くんの手を引き、自分の家へと戻った。



卒業後、僕はプロの忍になった。
城には属さずフリーとして。
幸い僕には髪結いとしての副業もあったから、仕事が無くても食うに困ることもなく、流れ者として潜伏するのも得意だった。

幸い今回は忍務絡みではなく、三ヶ月前から住み着いたこの町で彼を見掛けたのは、本当に偶然だった。
見付けた瞬間、声も出なくて、どうして良いのかもわからなくて、自身がパニックを起こしている事にも暫く気付かなかった程だ。





「此処だよ」
今僕が拠点としている貸家に乱太郎くんを連れて入る。
「あ、あのタカ丸さん…」
「ん?」
「手、繋ぎっぱなしです」
照れるでもなく、小さな子供に呆れながら微笑む大人の様な表情で、乱太郎くんはクスクスと笑った。
「え!あぁ」
四年前に別れたきり、逢いたくて逢いたくて仕方が無かった人が、目の前にいるのだ。
僕も自身の舞い上がり加減に気付いて、苦笑してその手を離す。

「今、夕飯の用意するから楽にしてて」
ニコリと微笑むと、乱太郎くんは慌てて首を振った。
「いえ!お世話になるんですし、私が!」
「…変わらないね」
妙に義理堅く、真面目で一生懸命、そのせいで厄介事に巻き込まれてばかりだった彼。
まぁ、僕もその厄介事の一つだったのだが。
…彼の本質はどうやら三年経っても変わっていなかったようだ。

「んー、じゃあお願いしようかな?」
「はい!」
新婚夫婦のように乱太郎くんにかいがいしく世話されるのは、きっと悪くない。
…なんて。

「乱太郎くん、お酒は飲める?」
「あ、はい」
「じゃあ今夜は再会の記念に一杯飲もうか」
「あはは、はい、ありがとうございます」

彼の笑顔に胸が温かく、なる。
色褪せていない恋心が、僕の中には確かに残っていた。





結局二人で食事の用意をして、酒を飲みながら色んな話をした。
卒業後、お互いにどんな生き方をしてきたか、とか。
僕の卒業後の学園の話とか。
先輩達が今どうしているかとか、知っているかぎりのお互いの思い出話を、たくさん、たくさん。

「…へぇ、じゃあ卒業してからは鉢屋くんと組んで、仕事してたんだ」
「はい、たまたま今回はお互い別の仕事が入ったので別行動で…」
「そっか、えっと…さ、あの…鉢屋くんとは…その」

再会して1番に思った、『いい人』の存在が、ぎゅっと僕の胸を締め付ける。

「ただの、同僚?」
「え?」
「あっ!いやごめんね!ううん、忘れて…」
「………はは、何て言うか…流石はタカ丸さん」
勘が良いなぁ、と笑う彼に…一瞬、泣きそうになった。

「私が卒業したら、一緒に生きようって…鉢屋先輩が卒業した時に」
約束、したんです。



楽しく弾んでいた会話、でもその話題に触れた瞬間、僕の中で大きな風船が割れる音がした。

在学中、目の前のこの赤毛の少年に恋する輩は後をたたず、僕もそんな一人で。
髪結いを本業にするか、忍びを本業にするか…最後まで悩んでいた僕の進路を決めたのは、乱太郎くんだった。
彼が忍びとなるのなら、僕も忍びとして生きた方が、一緒にいられる時間が、彼を助けられる機会が、髪結いをするよりもずっとずっとたくさんあるだろうと…僕の心を決めさせた。

別に、約束があった訳でも、僕と乱太郎くんの間に、特別な関係があったわけじゃない。
でも、僕は、勝手に…夢見ていた。

いつか彼の隣に並び立つ自分を。



だから。

「はぁああ…」
大きな溜息をつき、頭を隠すように下を向きうずくまってしまった僕に、乱太郎くんは驚いたように近寄る。
「どっどうしたんですか!?大丈夫ですか!?」

「完全な出遅れだ、はは…」
「タカ丸さん?」

顔を上げた僕は乱太郎くんの肩を掴んで引き寄せた。
「わっ」
「…鉢屋くんが、うらやましい」
「タカ丸、さん?」

泣くまい、泣くまいと必死にしているのに、君の前ではもう情けない自分は見せたくないのに、視界はじわじわと滲んで溢れたそれが一筋、僕の頬を伝う。



「僕も、君の隣で生きたかった、なぁ…」







君の為なら、この命さえ惜しくないと…
そう、思っていたのは僕もなのに。


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言い訳

タカ丸さん…報われない…
っていうか毎度の事ですが意味不明ですみません。
タカ丸さんか勘違いさんなわけではありません←
タカ丸さんは乱太郎と一緒に生きる未来を夢見ていたけど、決してそれが実現するとは思っていなくて、同時に自分と同じ様に乱太郎に恋する誰が乱太郎とくっつくことも無いと、漠然と思っていて。
でも実際は自分以上に乱太郎にアプローチを掛けて乱太郎を手に入れた人がいた事に、大きなショックと後悔に襲われている…話、でした←長い

はい、わかりずらくてすみません…(土下座
此処まで読んで下さってありがとうございました!