男は黙って読書に限る。



「仙蔵はいいなぁ」
満面の笑みで伊作は口を開く。
「ん?」
仙蔵は乱太郎をその胸に抱き、足を伸ばして悠々とその頭を撫でていた。

「足が長くてさ」
「そうか?」
そうか?と言いながらもさも当然の様に足を組み替える仙蔵に伊作は笑顔のまま続ける。

「長いよ、だからこんな大の男が六人もいる部屋で足を伸ばすのは窮屈じゃないかなって思って、あれだったら乱太郎を置いて自室で休んだ方が良いんじゃない?」
ニッコリと…何度も言うが人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、伊作は直訳すると「いつまでも乱太郎抱いてニヤニヤしてんじゃねーよ!ついでにその足邪魔なんだよ!寛ぐなら長屋の自室で一人の時にしろ!つーか帰れ!」と言い放った。

「ん?そうか、すまないな。では乱太郎さぁ私にしがみつけ、体位を変える」
しかしそんな威嚇はものともせずに、仙蔵もニッコリと微笑み、足を延ばす姿勢から正座へと体勢を移す。

「ん、あ…はぃ」
乱太郎には周りのピリピリした雰囲気は伝わらず、仙蔵に抱かれたまま眠そうに目を擦る。

「ばっバカタレィ!体位とか言うな仙蔵!」
眠そうな仕種の乱太郎に皆がデレデレする中、仙蔵のさりげない言い回しにいち早く気付き、思わずツッコミを入れた文次郎だったが、その文次郎を見詰める他の六年達の視線は冷たい。

「うわ、その発想が最低」
「キモい」
「気持ち悪い」
「キモんじ」
「しね」
全員笑顔だ。
容赦はない。

「ちょっと待て!今のは俺か!?俺が悪いのか!?つーかどさくさに紛れて死ねって言ったの誰だ!!」
あまりの言われ様に憤慨する文次郎だったが、既に他のメンバーは文次郎から興味を失っている。

遅くなったが、此処で現在の状況を説明しよう。



事の始まりは医務室で乱太郎の…
「今日きりちゃんが家賃滞納で立ち退き依頼が来たからって土井先生と二人で自宅に帰ってしまって、しんべえも用事があるからって実家に帰ってしまっているんです」
…だから今日は長屋に一人なんです。寂しいなぁ。
という呟きから始まった。

その場に居たのは六年の保健委員長善法寺伊作と、乱太郎が保健当番であることを聞き付けたむろしていた食満、立花、潮江、七松、中在家の六人だった。

「じゃあ今日私が乱太郎の部屋に泊まりに行くよ、そしたら寂しくないだろう?」
当然我先にとお泊りを立候補したのは伊作だった。
もちろん他の六年達が黙っている訳もなく、俺も俺もと手を挙げようとした。
しかし…
「駄目です!そしたら今度は食満先輩が寂しくなってしまいます!」
確かに、食満と伊作は同室だ。
しかし二人ともお互いが居ようがいまいが気にしない。
しかし問題はそこではなく、乱太郎が拒んだと言う事だ。
他の四人が好機とばかりにお泊りに名乗りを挙げるがそれぞれ同じ理由で却下された。

「じゃあ乱太郎、(百歩譲って)留さんと僕の二人で泊まりに行ってもいいかい?」
「…っ!(グッジョブ!伊作!)」
食満は久しぶりに伊作との友情を(一方的に)感じた。
「えっ!いっ良いんですか!」
伊作の申し出に乱太郎はぱぁあっと表情を明るくする。

「乱太郎、なら私と文次郎で泊まりに行こう」
「乱太郎!私と長次の方が良いよな!」
それはさせまいと他の四人も即行で二人ずつ手を組んだようだ。


「えっ!え、えと…えっと…」
どの先輩も尊敬できる大好きな先輩達だ。
乱太郎にそれぞれの誘いを無下にすることはできない…。
悩んだ末に…

「みっ皆でお泊りしましょう!」
ポンッと手を叩きニッコリ笑う乱太郎に、六年達も異議は唱えられなかった。



そして、狭い一年長屋の一部屋にぎゅうぎゅうに男六人と乱太郎が詰め込まれる現状に至る。

「仙蔵、そろそろ時間だ代われ」
食満留三郎が仙蔵に向かって両手を差し出す。
誰からともなく乱太郎抱っこを始め、こんなところだけは公平に一人15分でローテーションということになっている。
ちなみに二周目だ。

「食満よ、乱太郎を良く見ろ。疲れてうとうと仕掛かっている。こんな状態で次から次へとたらい回しにされたら可哀相だろう」
空気読めよ、9年目。
愛おしげに乱太郎の髪を梳きながら微笑む仙蔵の、ちらりと一瞬食満へ向けられた瞳は笑っていなかった。

「おま、今9年って言ったか?言ったよな?それ、今言わなくても良い事だよな?なんで言ったの?あえて言ったの?」
9年はトラウマを抱える食満に言ってはいけない台詞No.1だ。
こうなると食満はいじけ半分に相手に絡みまくる。質が悪い。

「しつこいぞ、9年目!」
ガッと、満面の笑みで食満を殴り付ける七松。

「うぅ〜」
そんな中、仙蔵の腕の中でウトウトし始めていた乱太郎がごそごそと動き始める。

「どうした、乱太郎…あ」
乱太郎は仙蔵の腕からスルリと抜けると、机の脇でパラパラと本をめくっていた長次の元へと擦り寄る。

「…!」
突然の事にびくっと反応した長次だが、自身にくっついた途端すやすやと寝息を立て始める乱太郎に、足元にあった布団を掛けてやる。

他の五人が恨めしそうに長次を見るが、長次は相変わらず何も言わない。

「なんか、ずるい」
七松が口を尖らせて不満を漏らすが、今回は乱太郎が自分から長次の隣を選んだのだ。
仕方ない。

「「「「「…」」」」」
「…寝るか」
とりあえず、と呟いた文次郎の一言に渋々全員が頷いた。



(((((…うるさかったからか!?煩いから静かな長次の所が良かったのか!?)))))
しかし五人は瞼を閉じても悶々と自分達の敗因を考えていた。





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言い訳

大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした…っっ
ケータイサイトのフリリク企画にて「六年×乱でニコニコお互いを貶しながら乱争奪戦、無言の勝利な長乱」を希望して下さった方に捧げますっ!!!

大変遅くなってしまい本当に申し訳ありませんでした…;;
しっしかも長次本当に無言!←本当に本当にすみません;;
こへも影薄くて申し訳ありません…;;
伊作と仙蔵でばりすぎで…(土下座

性格の悪い伊作と仙蔵が書けて凄く楽しかったですっ!!←私だけ(土下座
素敵なリクエスト本当に本当にありがとうございました!!

また、此処まで読んで下さって本当にありがとうございました!