独り勝ち?当然でしょ。



「あ…あの、何があったんですか?」



目の前には火繩銃(実弾じゃないよね、まさか)を構えた虎若と愛馬に乗った団蔵、蛸壷から頭を出し踏鋤を構えた綾部、縄標を構えた中在家、既に一人ボロボロに成りながら髪結い鋏を構えるタカ丸が睨み合っていた。

「乱太郎、これには深い訳が…」
神妙な面持ちで虎若が口を開いた。

「でも安心して!乱太郎は絶対に俺が守るから!」
何に安心すればいいのか、そもそも何をしているのか…良く分からないが団蔵が馬の手綱を引きながら爽やかに乱太郎に言い放った。

「…」
無言の六年生、中在家長次はヒュンヒュンと縄標を振り回しながらチラリと乱太郎を見る。

「…」
綾部も無言だがこちらは先程から乱太郎をガン見である。

「ら…乱太郎くぅーん…」
ボロボロで一人半ベソなタカ丸に乱太郎が目をやれば、捨てられた仔犬のように頼りなさげに乱太郎を呼んだ。

「た…タカ丸さん、一体何が…」
乱太郎がタカ丸に近寄ろうとすると、長次の縄標と虎若の銃が火を噴いた。

パァン!ザクッ!
「ひぃっ!!」
「わぁっ!!」

弾と切っ先は調度タカ丸の足元へと突き刺さり、タカ丸は後ろに後ずさる。
乱太郎も驚き長次と虎若を見たが、長次の満面の笑みと虎若の次弾を詰める手際の良さに思わず絶句した。

「タカ丸さぁーん…抜け駆けは駄目ですよぉ」
ヒヒーンと愛馬の前足を高く上げさせ、団蔵が低い声でタカ丸に声を掛ける。

「だっだって僕勝ち目がないじゃないか!武器が違いすぎるよ!」
タカ丸の言い分はもっともである。
銃、縄標、馬…vs鋏。
どう考えても勝ち目が無い。
そう言う意味では踏鋤を構える綾部も同じだが、あちらは身を守るために一人用の塹壕に収まっている。

「えっと…だから一体何があったの?これ喧嘩?」
それにしては面子がバラバラだ。
「喧嘩…ではないんだけど、成り行き?」
随分物騒な成り行きだ。
答える虎若はにっこりと乱太郎に笑顔を向ける。

「まぁ元々は僕と虎若が乱太郎を遊びに誘うのに、乗馬にするか火繩銃の練習にするかでちょっと揉めててね…」
愛馬を優しく撫でながら団蔵が苦笑して言った。
「私を?」
それが始まりで何故?と乱太郎は首を傾げる。

「そしたら調度通り掛かった中在家先輩が…」
「ぼそぼそぼそ…」
「乱太郎を読書に誘いたいって言い出して…」
「はぁ…中在家先輩まで…」
「でも僕らも相手が六年生だからって譲れないものもあるわけだよ!」
…譲れないんだ。

力いっぱいそう言う団蔵に、虎若も力強く頷いている。

「で、そこにまたタカ丸さんがスキップしながら…」
「『乱太郎くんの髪手入れさせてもーらおっ!』なんて言って通り掛かるもんだから…思わず」
「思わず?」
「皆にいきなり攻撃されたんだよ僕!」
叫ぶタカ丸はまた半泣きになっている。

「うわぁ…」
タカ丸さん、不憫…。

「で、調度そこに乱太郎がやってきて…」
冒頭に至る、訳だそうだ。

え、ではこの状況は私のせいなの…?と乱太郎が根本の原因に気付き、ハッとしていると。

「ねぇ、話終わった?」
よいしょと蛸壷から出て来た綾部が乱太郎に声を掛ける。

「あ!綾部先輩!…あれ?じゃあ綾部先輩は?」
先程の団蔵達の話を思い出し、登場しなかった綾部について乱太郎が尋ねた。

「私は関係ないよ?そこで蛸壷九号を掘っていたら皆がわらわらしだしたから見ていただけ」
…そもそも参加していなかった。

「な…なら止めて下さいよ」
「面倒だったし」
「…」
綾部はすこぶる真面目に答えている。

「で、話は終わり?まだ続く?」
サクッと綾部が踏鋤を地面に突き刺し寄り掛かるようにしてまた尋ねた。

「今からの予定を乱太郎と約束してるの私なんだよね」
「「「「…は!?」」」」
乱太郎意外の四人が声を上げる。

「そもそも勝手に人の恋人連れ出そうとしないで下さい」
ねぇ、乱太郎?と綾部が言い、乱太郎へと視線をやれば、乱太郎はほんのり頬を赤らめて視線を逸らす。

「「「「…っ!?!?」」」」
乱太郎のその反応に他の四人は言葉もない。

「異議もなさそうだし…行くよ?乱太郎」
「え、えーと…せっかく誘ってくれようとしてたのにすみません…それでは」
綾部に手を引かれながら困ったように笑い、乱太郎がそう言った。

しばらくしてようやく復活した四人だったが、乱太郎は既に綾部に連れ去られていた。




+++++++++
おまけ



「綾部先輩、約束なんてしてないじゃないですか」
「でも私を探しにきたんだろう?」
「そ…それはそうなんですが…」
「じゃあいいじゃない」

(み…皆にバレちゃったけどいいのかな?)
(ふぅ、これで諦めるとも思わないけど…ま、いーか)



+++++++++
言い訳

携帯サイト企画にて争奪戦綾部落ちをリクエスト下さったDAKARA様に捧げます!
あ…あんまり奪いあってなくてすみません…(土下座
しかも綾部落ちと言うより綾部一人勝ち(笑

しかも綾部のキャラが…捏造で本当にすみません…(土下座

争奪戦、読むのは凄く好きなのですが、自分では中々書く機会がないので凄く楽しく書かせて頂きました!!

素敵なリクエスト本当に本当にありがとうございました!!