深愛
※年齢操作、未来捏造です。
苦手な方はご注意下さい。
もしもこの目が見えなければ、
貴方の笑顔を知らずに済んだ。
もしもこの耳が聞こえなければ、
貴方の声を知らずに済んだ。
もしも貴方に出会わなければ、
こんなにも切ない想いも、知らずに済んだのに。
「鉢屋せんぱーい!」
校庭の角の木陰で昼寝をしている鉢屋先輩を見掛けた。
さっき別の場所で雷蔵先輩を見掛けたのでそれが鉢屋先輩であることはすぐにわかった。
鉢屋先輩を見掛けると、声を掛けずにはいられなくて、ニコニコと自然と笑顔になってしまって、時間が許すのならば、居れるだけずっと傍に居たくて。
私はいつもそうして、あの人の名を呼びながらあの人のもとへ駆けて行った。
「…」
「スー…スー…」
思わず大声で呼んでしまったが、近寄って鉢屋先輩がまだ眠っていることを確認すると、一瞬ドキリとしてすぐにホッと胸を撫で下ろす。
(起こして仕舞わなくて良かった)
そして先輩の隣にコロンと横になり、乱太郎も目を閉じる。
「…」
「スー…スー…」
目を閉じると不思議と隣にある温もりが肌を通して伝わって来て、私は凄く幸せな気持ちになった。
「…今日は一人かい?」
不意にポツリと話し掛けられて私はガバリと起き上がる。
「っ先輩!…すすすみません…起こして、仕舞いましたね…」
私が俯き謝ると、鉢屋先輩は優しく私の頭を撫でてくれた。
その手の温もりがまた心地良くて、私は目を閉じ幸せを感じる。
「乱太郎が俺を呼ぶ前から起きていたから大丈夫だよ」
クスクスと笑いながら鉢屋先輩は狸寝入りを明かしてくれた。
ホッとした私はまたコロンと横になり、今度は鉢屋先輩にぴったりとくっつく。
「どうした?」
「何でもないんです、ただ…先輩と一緒に居たかったんです」
唯々、それだけだった。
幼かった私は、自身のあの人への気持ちをまだ理解するには至っていなくて、ただ鉢屋先輩が好きで、ただ傍に居たい。
それだけだった。
「ありがとう、」
鉢屋先輩は、いつもとても優しくて。
同期の先輩方と一緒にいる時とは違う、ただひたすらに優しい態度で、言葉で、仕種で、温度で、手の平で…
私に触れた。
先輩の隣は、私の特別な場所だった。
鉢屋先輩が卒業したのは私が二年生の時だった。
先輩方の卒業はその前の年にも経験していた。
尊敬する先輩達が、外の世界へと出ていく。
一歩学園の外へ出ればそれはプロの忍びの世界で、生徒として、同志として学園に戻ってくる事はない。
それは寂しくて、少しだけ悲しくて、でも「おめでとうございます」と心から祝福するべき瞬間で。
分かっていた事だった。
鉢屋先輩も、そうして学園から卒業していくのだと。
もう校庭の角で二人で昼寝をしたり、先輩の部屋で勉強を教えて貰ったり、休日に二人でお団子を食べに行ったり…
そんな私と鉢屋先輩の日常が、終わって仕舞うんだと。
「ご卒業、おめでとうございます」
私は、精一杯の笑顔で先輩にそう言った。
必死に両の手をにぎりしめて、少しでも力を抜くと涙が溢れて仕舞いそうで。
震える声をなんとか我慢して、先輩が卒業を迎えられた事を、祝福しなくては…と、そればかりに縛られて。
「ありがとう、」
鉢屋先輩はそれだけ言うと私を強く強く抱きしめてくれた。
「…っ」
そんなことをされれば当然、私が必死に堪えていたものは易々と決壊していく。
「乱太郎、」
「は…い」
優しく名前を呼ばれると、胸が苦しくなって息ができなくなる。
「ずっと、言いたかった事があるんだ」
鉢屋先輩の声はいつもより少しだけ小さくて、私は何を言われるのかと少しだけ緊張した。
「乱太郎が、好きだよ」
それはとても幸せな一言で、私は自分も先輩が大好きなのだと伝えたくて、鳴咽で思うように回らない舌で、必死に訴えようと口を開いた。
「…はいっ、はい…私も、私も鉢屋先輩が…」
ボロボロと溢れる涙が、先輩の制服を濡らしていく。
「ありがとう、でもきっと乱太郎の私を好きだと思う気持ちと、私の君を好きだと思う気持ちには、決定的な違いがある」
「…?」
鉢屋先輩は酷く切なそうな瞳で、私を見詰めた。
「私のこの気持ちを理解出来たら、受け入れても良いと思ってくれたなら…いつか」
「せん…ぱい?」
先輩の唇が、ゆっくりと私のそれに重なった。
それはほんの数秒の出来事だったはずなのに、私には永遠の時間にすら感じる程に、とても神聖な儀式のようだった。
「乱太郎が、愛おしいよ」
口付けが終わり、呆然とする私に先輩は少しだけ笑って私の頭を撫でて、最後に一言だけ…
「ごめんね」
それが何に対する謝罪だったのか、私には分からない。
鉢屋先輩は、私の先輩への想いを尊敬や憧れを含む好きなのだと思っていたんだと思う。
でも私は、あの口付けで自身の鉢屋先輩への感情が、他の先輩達への好きとは違うという事を知った。
私は、鉢屋先輩を…
鉢屋先輩と会ったのはそれが最後だった。
私の想いは貴方の想いと同じなのだと、私も鉢屋先輩が愛おしいのだと、早く早く伝えたくて。
また先輩に触れて欲しくて、今度は私からも触れてみたくて…
必死に先輩を探して連絡を取ろうと頑張ったけれど。
先輩と連絡が取れたことは一度として無く、先輩が私の元へ訪れることも未だに無い。
「自分だけ言い逃げなんて、狡いですよ…」
待つ事は苦しい。
唯々、想いばかりが募って、吐き出す術もなく。
唯々、胸を焦がす焦燥と恋慕に自身の身体を掻き抱くしかできない。
いっそ忘れて仕舞えれば。
どんなに楽かと、何度も何度も思ったけれど。
私の肌も瞳も頭も心も唇も手の平も…あの人に触れた全てが、いつまでも鉢屋先輩を覚えている。
終
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言い訳
微妙に続きます…
というか全部短編なのですが、若干設定が重なってくる感じです。
何て言うか支離滅裂ですみません…(土下座
不完全燃焼って言うより支離滅裂…orz
すみません…;;
此処まで読んで下さって本当にありがとうございました!!