鉢屋三郎の憂鬱



「つまらない…」

千の顔を持つ男として、忍術学園では知らぬ者はないと言われる五年生。
鉢屋三郎は五年長屋の屋根の上に寝そべり呟いた。

今日は2月14日。
せんと・ばれんたいんでーとか言う日だ。
室町時代にそんなもの…というツッコミは置いといて、公式イベントとしての委員会対抗チョコレート争奪戦に、何故か学級委員長委員会は不参加だったのだ。

本来ならばそんな楽しそうなイベントを逃すはずもなく、得意の変装で事態を掻き混ぜるだけ掻き混ぜて悪戯し放題だというのに…
公式権力には敵わない…。

楽しそうな喧騒を避け、早々に屋根の上でふて寝と決め込んだのだ。

はぁ…
「つまんねー…」

別にひがんでいるわけではない、決して。
例え同期の豆腐や毒虫野郎が両手いっぱいの色とりどりの包み紙にデレデレしていても…!
自分がよく顔を借りる三病男が今から一ヶ月後のお返しをどうしようか悩んでいても…!

「っだぁーっ!なんか腹立って来た!」

どうやってあの三人へ悪戯してやろうかと八つ当たりとも言える報復を一人考えているとそこへ…


「鉢屋せんぱーい!」

遠くから聞こえる聞き慣れた声。
「乱太郎?」

ひょっこりと屋根から顔を覗かせると、一年生の猪名寺乱太郎が駆けてきた。

「見つ…けた!はぁ…はぁっ」
息を切らし、三郎のいる屋根の下まで来ると、乱太郎はにっこり笑って三郎を見上げる。

「どうしたんだ?そんなに急いで…」
とりあえず屋根から飛び降り乱太郎の側に寄り、自分より大分背の低い乱太郎に目線を合わせるように屈んでみる。

「あの…!これっ!」

呼吸を整えながら目の前に包みを差し出された。

「ん?なに、これ?」
「ばれんたいんなので…!」

…乱太郎から…俺に、チョコ…。

「…なんで?」

それは素直に出た疑問だった。

乱太郎とは同じ委員会の庄左エ門達ほどではないが、他の一年生よりは接点が多い。
雷蔵が「素直でいい子」といたくお気に入りで、関わっていくうちに三郎自身もこの素直で奔放な可愛い後輩に惹かれていた。

しかしそれはあくまで俺が一方的に思っていただけで…。

「庄左エ門と彦四郎にも渡したんですが、鉢屋先輩もよろしければ…と」

迷惑でしたか…?と段々と小さくなる語尾に、逆に三郎は理由が分かって思わず噴き出す。

「…っはは…なぁーるほど」

三郎は乱太郎から包みを受け取り、乱太郎の頭をクシャクシャと撫でた。

受け取って貰えたことにホッとしたのか、にへらと笑う乱太郎を今度は持ち上げて抱きしめた。
「わわっ!せんぱ…」

慌てる乱太郎をそのままに…

「ありがとう、乱太郎は優しいな」

おそらく、今回イベント不参加の学級委員長委員会が、一緒にイベントを楽しむ方法として考えてくれたのだろう。

「あと渡したのは庄左エ門と彦四郎だけ?」
「はい!」

元気よく答えるその姿に、三郎はさらに笑みを深める。

そうか…一年の二人を除けは、先輩で乱太郎からチョコを貰えたのは俺だけか。

先程までのモヤモヤはどこへ行ってしまったのか。
心を占めるのは目の前の愛しい後輩への想いと幸せ。

「ありがとう」

もう一度そう言うと、乱太郎は照れたようにえへへと笑う。

今日のところは乱太郎に免じて悪戯はやめておこう。

そうしてせっかくだからと、二人きりでチョコを食べる三郎と乱太郎が、五年長屋の屋根の上で目撃され、浮かれはしゃいでいた他の生徒達が絶叫するのはまた別の話。








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言い訳。
バレンタインイベントに参加出来なかった鉢屋に幸せをあげたかったんです…。

鉢屋の一人称と口調がわからない…!←何故書いた

オチ弱い駄文ですみませ…。
読んで下さってありがとうございました!