片想い



※年齢操作未来捏造です。
苦手な方はご注意下さい。
















































ガラッ

「らーんたろー!いるー?」
乱太郎達の部屋の戸を勢いよく開け、兵太夫が顔を覗かせた。

「…」
返事はないが、人の気配はする。
兵太夫が部屋の奥へまで視線をやれば、そこでは机に突っ伏したまま居眠りをしてる乱太郎がいた。

「乱太郎ー…予算会議始まるらしいよー?」
行かなくて良いのー?と乱太郎に近付き声を掛ける兵太夫だが、その声は小さく端から起こす気などないことが伺える。
そして、近付いても乱太郎が起きない事を確認すると、兵太夫は乱太郎の隣に腰を降ろし、そのまま乱太郎に向かい合うように長机に突っ伏した。

「…」
「すー…すー…」

規則正しい寝息と共に上下する肩。
翡翠の瞳は閉じられ、唇が少しだけ開いている。

(気持ち良さそうに寝ちゃって…)

兵太夫は乱太郎の寝顔を見つめて小さく微笑む。

(保健委員は確か三反田先輩と川西先輩がいたし…このまま寝かしといても問題ないよな)

「…うちも藤内先輩いるし、僕もサボろ」
ぽつりとそう零して、兵太夫は今期の予算会議を他のメンバーに丸投げすることを決めた。
新作の罠やからくりを試す絶好の機会ではあるが、乱太郎の寝顔と天秤に掛ければ当然後者に傾く。

ふと乱太郎の突っ伏している机に目をやれば医学書と薬草図鑑が乱雑に広げられていた。

(…また徹夜で薬作ってるのか)

三年になった頃から乱太郎は薬の調合に精を出していた。
夢中になると時間を忘れるのは数少ない乱太郎と兵太夫の共通点で、徹夜明けのくまを見てお互いに「お疲れ…」なんて挨拶をするのが常だった。
しかし乱太郎はいつもその後自分の事を棚に上げて「ちゃんと寝ないと体壊すよ?」と兵太夫の体を心配するのだ。

(まったく…)

まったく、と言いつつ、兵太夫の顔は酷く上機嫌で、乱太郎を独り占め出来ているこの状況を楽しんでいた。

「んー…ちょ…ん、こら」
不意にむにゃむにゃと乱太郎が寝言を言い始めた。
「…っぷ、なんの夢見てんだか…くく」
兵太夫は小さく笑いを堪えて乱太郎を見つめる。



「もう…きり、ちゃん」



ぽつりと、乱太郎の漏らした寝言に兵太夫はスッと自身の気持ちが急降下するのを感じた。

(…きり丸の夢かよ)

途端に眉をひそめ苛々しだす兵太夫だが、相変わらず気持ち良さそうに眠る乱太郎はその変化には気付かない。
兵太夫は体を机に倒したまま反転させ、壁を向いて小さく息を吐く。
少し落ち着かなければ…。

乱太郎ときり丸は仲がいい、そこには常にしんべえも含まれるが、きり丸の乱太郎への執着はあからさまだった。
きり丸が唯一、銭より好きなのは乱太郎だろうと思うし、乱太郎もそんなきり丸を誰よりも大切にしているのは、衆知の事実だった。
兵太夫はそんな二人の関係に嫉妬に近い感情を抱いていた。

(駄目だ、ムカつく)
落ち着くどころか、普段の彼等を思い出した兵太夫は苛々を募らせていく。
くるりと再び乱太郎へ向き合うと、兵太夫は乱太郎の髪に指を絡ませため息を付く。

(そんなに、好きなんだ…)
あんなにもいつも一緒にいて、夢にまで見る程に。

(ねぇ、僕の気持ちにも気付いてよ)
普段そんなそぶりは全く見せていないのだから、無理な話だとは分かっている。

でも、

(僕はこんなに、乱太郎が好きなのに)
そう思うと、頭よりも先に体が動いていた。
そっと乱太郎に近付き薄く開いた唇に口付ける。
触れるだけだ、しかしありったけの想いを込めて。

「…ん」
擽ったさに乱太郎が身をよじると、兵太夫はハッとして乱太郎から離れた。

(…まだ、起きてない)
ホッとしたような、残念なような複雑な気持ちだった。
兵太夫は乱太郎に触れた自身の唇に指を這わせ、目を閉じる。
初めての口付けに今更ながら鼓動が速まるのを感じた。

(柔らかかった…)

不意にそんな事を考えて頬を緩ませると…



「兵…だゆ…」



「…っ!」
小さくだが、確かに聞こえた自身の名に兵太夫は思わず後退り、ガタッと物音を立ててしまった。
幸い乱太郎が目覚める気配はない。

「…」

静まりかえった部屋の中で、自身の鼓動と乱太郎の寝息だけが聞こえる。
兵太夫は後退り固まったまま動けないでいたが、胸に広がる温かさに底辺にあった気持ちが急上昇していくのを感じた。

…一言。
たった一言だ。

乱太郎の一言にこんなにも気持ちを左右される自分がいる。

(この気持ちを素直に伝えたら、乱太郎はどんな顔をするだろう…)

兵太夫はそろそろと乱太郎に近付くと、乱太郎の柔らかい赤毛をすき、もう一度優しく口付けた。

「卑怯だよなぁ…」

こんなに乱太郎が好きなのだ。
諦めることなんてできる訳もないのだから、戦うしかないではないか。



「ま、見ててよ」
絶対に振り向かせるから。

不敵に笑う兵太夫の呟きは、夕暮れの学園に消えていった。






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言い訳

携帯サイトの8000hitの際に頂いたキリリク「きり乱前提の兵乱」…でした。
き…きり丸出て来てなくて本当にすみません…(土下座っっ

い…イメージと全然違っていたら本当に申し訳ありません!!っっ

うちの兵太夫は略奪愛推進でして…←
せっかくリクエスト頂けたのにいつも通り不完全燃焼で申し訳ありませんでした…っっ
実はネタ自体は以前から温めていた前ジャンルのリメイクで…(土下座
今回、リク内容がぴったり(自分の中では←)だったので使わせて頂きました。

リクエスト本当に本当にありがとうございました(^-^)!

また、ここまで読んで下さって本当にありがとうございました!!