溺愛



「鉢屋先輩、用って何ですか?」
「こっちこっち、中に入りな」
消灯時間は当に過ぎ、静まり帰った五年長屋の自室に、乱太郎を呼び出した。

「あれ?雷蔵先輩は?」
失礼しますと、中へ入った乱太郎はキョロキョロと部屋の中を見渡す。

「今夜はあいつ、学園長のお使いで戻らないんだ」
「…っそ…そう、なんですか」
明らかに動揺する乱太郎に、俺はするりと近寄るとそっと後ろから抱きしめる。

「はっ鉢屋、先輩?」
びくりと肩を震わせ、首を回し俺を窺い見る困惑した瞳に、ぞくりとした。

「なんで呼ばれたか、わかった?」
今はいない同室の友の顔で、彼のあの柔らかい笑顔で問い掛ける。

「あの…するん、ですか?」
恐る恐ると聞き返す乱太郎に、駄目?、と耳に吐息を吹き込む。
びくりと反応する身体が可愛いらしい。
乱太郎は顔を真っ赤にしながらフルフルと左右に振った。

「乱太郎、好きだよ」
「私も、鉢屋先輩が好きです」

布団の上に乱太郎を座らせ、するすると腰紐を解く。
合わせ目を開き肩を剥き出してそこへ小さく口付ける。
乱太郎も、されるがままではなく、最近は自分から俺の腰紐を解いたりするようになった。
乱太郎の肩口に頭を埋めながら俺はぽつりと呟く。

「乱太郎は、いつから兵助とも仲良くなったの?」
「え?久々知先輩、ですか?」
「うん、今日話してたでしょ?朝」
乱太郎の顔を見ないまま乱太郎の上着をめくり、つつ…と背中をなぞる。

「っ…朝、手洗い場で久々知先輩お会いして、今日の放課後火薬委員会の集まりがあることを伊助に伝えて欲しいと、言われたんです」
多分、その時のことですよね?と、俺の愛撫にぴくりと肩を震わせながら、乱太郎が答える。

「…それだけ?」
「それだけですよ?」
鉢屋先輩?と肩口に顔を埋めたままの俺を引きはがし、乱太郎はまじまじと俺を真っ直ぐに見つめる。

「…」
「…」

多分、今俺は酷く情けない顔をしている。
乱太郎はそんな俺をぽかんと見詰める。
なんだかいたたまれなくなって、俺はぎゅーっと乱太郎を抱きしめた。
乱太郎は抵抗もしないで、俺のしたいようにさせている。

「…乱太郎は誰にでも優しいから不安になる」

ぽつりとそれだけ言えば、乱太郎が吹き出した。

「…ぷっくく…っあはは」
声を上げて笑い出した乱太郎に、俺は首をそっぽへ向け少し拗ねたそぶりをしてみる。
すると慌てて乱太郎が笑いを抑える。

「やきもちを妬いて下さったんですね」

乱太郎の腕が、そっと俺の背中に回る。
こくりと頷けば、乱太郎は回す腕に力を込めた。

「ありがとうございます」

少しだけ体を離して乱太郎を見つめると、優しく微笑む翡翠があった。

何度この瞳に癒されたかしれない。

四歳も年下の、子供に…なんて様だ。
しかしこの子を手放す気にはさらさらなれず、がんじ絡めに縛り付けている。
逆の立場だったら真っ平御免だって言うのに、乱太郎は決して俺を拒まない。
なんて出来た子供だろうと思う。
これが幼さ故のものなのか、乱太郎の本質なのかは分からないけど乱太郎のその優しさは酷く心地良く中毒性が高い。

「鉢屋先輩にだけです、私にこうして触れるのも、私がこうして触れるのも…」
乱太郎が俺の首筋に口付ける。
全く…こんな仕草何処で覚えてきたんだか。
10歳なんて、この行為の意味だってちゃんと理解出来ているのか怪しいところだ。
でも、今はそれでいい。

ただ大好きな君の1番深くまで感じて君を独り占めしたいだけなんだ。

「君を好きになってから、自分がどれだけ器の小さな人間かって事を思い知らされたよ」
「鉢屋先輩?」

乱太郎をゆっくりと布団に横たえながら呟いた。

「乱太郎が好きなんだ、凄く」
「私も、鉢屋先輩が好きです…凄く」

口付ける瞬間、君が嬉しそうに微笑むのが見えて、俺は酷く満たされた気持ちになった。






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言い訳

裏を書こうとして裏にならなかった話←
うーん…嫉妬に狂った鬼畜鉢屋を…!!と考えていたのに、え…ただのへたれじゃん←すみません…

エロじゃないけど山もオチも意味もない…っていう…

すみません…orz

ここまで呼んで下さって本当にありがとうございました!