五年会議
「三郎」
「んー?」
「ちょっと相談…乗ってくれる?」珍しい申し出に三郎はくるりと体勢を変え雷蔵に向き合う。
「あの、さ」
「うん」
「その…」
いつになく煮え切らない態度に、三郎は首を傾げる。
間違いない、迷い癖が発動している。
「人間言わないで後悔するより言って後悔するほうがスッキリするんじゃないか?」
悩む雷蔵に三郎がそう言えば、雷蔵は「うーん、…そうだね」と顔を上げた。
「あの、さ…男同士でする時って、何が必要かな?」
「……………………は?」
たっぷり間を開けて三郎がぽかんと口を開ける。
するって何を?なんてお約束な事は聞かない、なんて言ったってお年頃だ。
だがしかし…
「何故その質問を俺にする」
「いや三郎なら経験あるかなーって」
ニコニコと人の良い笑みを浮かべ雷蔵が答える。
「ねーよ!」
そんな雷蔵に思わず即答した三郎だったが、漸く根本的な疑問に気が付く。
「…っていうかするのか!?男と!?男役で?女役で!?」
喜々として雷蔵を質問責めにする三郎に、雷蔵は苦笑気味だ。
「いやっその、うーん可能性は、まぁ。とりあえず知識だけ先に…って思ってさ」
照れ臭そうに鼻の頭をかく雷蔵に、三郎は純粋に感動していた。
(色事に疎い奴だと思ってたのに…いつの間にか人って大人になるんだなぁ…)
まぁ、相手が男ってのは置いといて此処は盛大に友の成長を祝ってやろうじゃないか…。
ニヤリと三郎が笑い、それに気が付いた雷蔵がハッとしたが時既に遅し…
「兵助ー!!八ーー!!スゲー面白…じゃなかった大事件ー!!」
スパーンっと部屋の扉を開き、大声で三郎が叫ぶ。
「ちょっ三郎!!何二人呼んでってか面白いってどういうこと!??」
雷蔵が三郎に掴みかかると、どこにいたのか呼ばれた二人がすぐに現れた。
「どーしたー?」
「なんだよ三郎ー」
あんまり乗り気ではなさそう(たいてい三郎に呼び出される時はろくな事にならないからだ)な二人だが、律儀に毎回付き合ってくる。
「来るの早っ!特に兵助お前い組だろ!?」
二人の登場の早さに雷蔵が思わず声をあげた。
「なんだ、またい組だけハブか」
「こんな時に拗ねるなよ、ややこしい」
すかさず兵助が食いついたが、三郎が流す。
「で?」
何が大事件なんだ?
落ち着いたところで竹谷が聞き返すと、喜々として三郎が説明を始めた。
かくかくしかじか…
「マジで!?てか相手は!?」
「へー」
嬉々として話に食いつく竹谷はともかく…兵助テンション低くない?と三郎が首を傾げる。
「だってあんま興味ない」
と事もなげに告げる兵助に鉢屋を始め、雷蔵までが目を丸くする。
「お前豆腐が絡まねーからって…」
「ちげーよ!」
呆れたように竹谷が見当違いのツッコミをすれば、すかさず兵助も反論した。
「だって雷蔵が誰かとくっついて幸せになるんなら、それでいいじゃん…男とか女とか関係ないんじゃないか?」
「おー」
普段の豆腐狂とは思えない程のまともな意見に、竹谷と雷蔵は素直に驚いた。
心なしか兵助の後ろに聖人の輝きすら見える。
「ま、話を戻して…」
兵助が興味があろうがなかろうが関係ない、実際興味があるのは俺自身!とばかりに、鉢屋はさっさと話を戻した。
ちょっと良い話も台なしである。
「で、相手は?」
歳は?
此処の生徒なのか?
と核心に迫る質問を改めてぶつければ、雷蔵は困ったように笑う。
「う、うーん…その、まだ僕が告白したばかりで…何とも言えないんだけど…」
アハハ…と照れ臭そうに話す雷蔵の意外な一面に、三人はまた驚かされる。
「雷蔵から!?」
「なにそれマジ!?」
「水くせーよ、相談しろよー」
「いや、その…」
ここでも更に言葉を濁す雷蔵に、痺れを切らし、鉢屋が問う。
「で、相手は?」
興味がないと言っていたはずの兵助すら、ニヤニヤとあからさまに楽しんでる顔で竹谷と並んで雷蔵を見つめる。
「…一年は組の乱太郎、くん…なんだ」
言っちゃった!
と恥じらう雷蔵をよそに、散々煽っていた三人がぴたりと動きを止める。
「あ…あれ?どうしたの??」
不審に思い雷蔵が首を傾げれば、「認めーん!」ッと三人が立ち上がった。
「は!?」
「乱太郎は駄目!!乱太郎は俺の!!「何勝手な事言ってんだよおまえのじゃねーよ!」
「って言うかいつ!いつ告ったんだ!?」
いきなり騒ぎ始めた三人は台詞が被るのも構わずに一斉に抗議を始めた。
「え、昨日だけど…」
三人の変わり様に一瞬呆気に取られていた雷蔵だが、聞かれたことには律義に答える。
「めちゃくちゃ最近じゃねーか!」
「なんだよ抜け駆けかよ!」
「ぬっ抜け駆けって…皆も乱太郎くんを好きなんて初耳だよ!?」
皆だって抜け駆けするき満々だったってことだろ!?
「…」
「…」
「…」
むしろそっちこそどういう事だ!?と雷蔵が叫べは、三人は一瞬口ごもる。
そうか、本当に抜け駆けするきだったのか…と雷蔵が冷静に思うが、三人の抗議は早々に再開された。
「駄目だ認めん!」
「認めん!」
「認めんって事で俺は用事思い出した」
「あ!俺も!」
「そーだ!俺も!」
「は!?」
呆気に取られた雷蔵を差し置き、三人は「解散!!」と叫んでシュタッと消えてしまった。
こんな時ばかり忍者しやがって…と雷蔵は思うが、三人の行き先を想像しハッとした。
「…ん!?ちょっ…ま、さか乱太郎くーん!逃げろーーー!!」
雷蔵の絶叫は果たして一年長屋まで届いたのか…!!
雷蔵と乱太郎に不健全な未来はやってくるのか…!!
続…かない。
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言い訳。
五年生に年頃な会話をさせたかったんです…。
女性の好みとか好きな体の部分とか…そういうのを真面目に討論する五年が書きたかったんです。
…はずなんですが、何故?
全然違う話に…←毎度だよ
もっとちゃんとテンポの良い話が書けるようになりたいです。
ここまで読んで下さってありがとうございました!