どうして



「乱太郎、ちょっといい?」
乱太郎が医務室で薬の整理をしていると、庄左エ門がやってきた。

「どうしたの?庄ちゃん、怪我?」
きょとんとする乱太郎をよそに、庄左エ門はやたらと戸の外や天井、床下を一通り警戒したあと足早に乱太郎の目の前にやってきた。

「…どうしたの?」
明らかに様子のおかしい庄左エ門に、乱太郎は心配そうに首を傾げる。

「乱太郎、僕のところの四年のこ…知ってるよね」
庄左エ門は何かを探るように、じっと乱太郎の瞳を見つめる。
「学級委員長委員会の?…あぁ!うん、よく此処にくるけど」
それがどうしたと言わんばかりの乱太郎の普通すぎる反応に、庄左エ門は眉をしかめる。

「…乱太郎、あの子に告白されたんだろう」
「え?!…う、うん」
一瞬目を見開いた乱太郎だったが、変わらず真剣な瞳で乱太郎を見つめ続ける庄左エ門に、すっと平静に戻り答える。
「断った、んだよね」
「うん」
乱太郎がそう言うと、庄左エ門は更に眉間の皺を深くして、頭痛を堪えるように頭に手を遣りしばし唸る。

「…」
「…」

少しの間沈黙が続き、庄左エ門は一つ大きく息を吐くと、もう一度乱太郎を見つめた。

「彼と床を共にしたって本当かい?」
「とっ床を共にっていうか…!…いや、うん…した、けど」
「どうしてっ!?」
いつも冷静な庄左エ門には似合わない余裕のない声音で、庄左エ門は怒鳴るように乱太郎を問い詰める。

「どうしてって…相手をして欲しいって頼まれて、薬を出すって言っても聞かないし…」
一度きりで諦めるっても言うから、まぁいいかなって…あはは…っと苦笑しながら乱太郎が顔を上げると、そこにはかつて見たことがないほど爽やかに微笑む庄左エ門がいた。
しかしそのこめかみにはくっきりと青筋が浮かび…

「しょ…庄ちゃん?」
「なに、乱太郎」
「目が…笑ってないよ?」
「うん、怒ってるからね」
さらりと言う庄左エ門に、乱太郎はひやりと背中を伝う嫌な汗を感じる。

「あと乱太郎」
相変わらずの笑顔で庄左エ門が問う。
「さっき薬って言ってたけど、それってこれ?」
庄左エ門が差し出した包みに、乱太郎が目を丸くする。
「あれ?なんで庄ちゃんが?」
庄左エ門が持っていたのは、乱太郎が調合した媚薬、所謂催淫剤だった。
五年連続で保健委員を勤めてきた乱太郎は、薬に関しては酷く研究熱心で、今では六年生の保健委員長の川西を凌ぐとも言われる程の腕前を持っていた。
その媚薬も自白剤用として作ったものを、効果を薄めて医務室へ年頃の悩みを打ち明けに来た者に気付けとして処方したものだったのだが…。

「乱太郎…」
「は、はい」
「乱太郎は好きでもない相手と寝れるの?」
「寝て…まではいないよ?その、頼まれて少し手伝うくらいだし」
「こんな薬だしたり」
「それは刺激が欲しいって人限定で…」
「…」
「…」
気まずさに視線を逸らす乱太郎に、庄左エ門はまた大きくため息を付く。

「…じゃあ乱太郎は僕が相手をしてって頼んでもしてくれるの?」

「え、なに…庄ちゃん、溜まってるの?」
庄左エ門もそういうの興味あるんだ?と驚きながらさらりと問いかける乱太郎に、庄左エ門はがっくりとうなだれる。

乱太郎はいつも穏やかで優しく、周りから友情以上の感情を抱かれていることにも気付かない、恋愛やそういった色事に疎いのだと…思って、信じていた庄左エ門にはこの数分の乱太郎とのやり取りは衝撃的すぎた。
そしてそんな彼に追い打ちを掛けるように乱太郎は…

「は組で私にそういう話をしてくるのって団蔵とか兵太夫だけだと思ってた」

庄左エ門は、聞き間違いかとまじまじと乱太郎を見つめる。
見つめられた乱太郎は「ん?」と小首を傾げる。

「団蔵や、兵太夫とも…そういうこと、して…るの?」
震える声をなんとか搾り出して問う庄左エ門に、乱太郎はあはは…と苦笑する。

「…っ何考えてるんだあいつらはっ!?」
思わず声を荒げてしまう庄左エ門だが、やはり乱太郎は少し困ったように笑うだけだ。

そんな乱太郎に、庄左エ門は少しだけ苦しくなる。
庄左エ門は乱太郎に淡い恋心を抱いていて、後輩から乱太郎との関係を相談されて(フラれても諦めるられないと言う話からどんどんとんでもない事実が明らかになっていった…)衝撃を受けたが、乱太郎自身がそれらを全く意識していないことが1番ショックだった。

「女の子じゃないんだからさ、惜しむようなものでもないでしょ?」
自身を苦しそうに見詰めたまま黙ってしまった庄左エ門に、乱太郎はぽつりと零す。

「それで満足する人がいるなら、私は私にできることをするだけだよ」
だって私は保健委員だから。

それは違うだろ!?
と怒鳴ってしまいたかった庄左エ門だが、そう言って微笑む乱太郎の笑顔は、一年の頃の真っ白な彼と何も変わらなくて…
庄左エ門は無意識に乱太郎を引き寄せて抱きしめていた。



(どうして…)

(どうして君の本質は何も変わっていないのに、こんなにも僕等の関係だけが変わってしまったんだろう…)






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言い訳

団乱よりもgdgdですみません…(土下座
乱太郎の博愛は学年問いません。
後輩からも愛されてます、求められてます(捏造甚だしいくてすみません…土下座)

このあと団蔵と兵太夫は庄左エ門に説教されます。
それはそれはネチネチと…。

はい、本当にこんな不完全燃焼な話をすみません…。

ここまで読んで下さって本当にありがとうございました!