愛しさ故に



耳鳴りが、止まない。





最近、図書当番をする回数が増えた。
乱太郎くんが図書室に以前にも増して、よく来るようになったから。

「最近よく来るね、調べ物?」
返却された本を棚に戻している隣で、乱太郎くんが本を探していたので声を掛けた。

「雷蔵先輩!…いえ、勉強じゃないんです…このシリーズにハマってしまって」
苦笑しながら乱太郎くんが指を指したのは、下級生向けの物語だった。
「それ、僕も一年生の時ハマった」
主人公が恰好良いよね。
笑って僕がそう言うと、乱太郎くんは目をキラキラさせながら、ぶんぶんと首を縦に振る。

「はっはいっ!そうなんですっ!!凄い恰好良いんですっ!」
新しく借りるのだろう、二冊の本を両手で抱え、主人公や仲間達の活躍の恰好良さを喜々として語る乱太郎くんに思わず笑みが零れる。

その本は、一人の忍者が主人公で様々な任務でのピンチを毎度間一髪で避け、悪者を退治していくという、ありふれた物語だ。
実際、忍者には正義も悪もない。
ただ己の果たすべき使命を完遂する事だけが全てだ。
いつの間にかそんな夢も希望もないような現実を受け入れてしまっていたが、一年生の頃の自分は今の乱太郎くんと同じように純粋にそんな忍者になりたいと憧れていた。

きっと、今の乱太郎くんと同じように。

一通り話し終え、ハッと我にかえった乱太郎が「すっすみません…」と顔を真っ赤にして謝罪するのに、僕は乱太郎の柔らかい髪をくしゃくしゃと撫で笑った。
乱太郎は擽ったそうに首を竦める。

「乱太郎くんが僕と同じ物が好きで嬉しいよ」
それは本心だった。
大好きな君が僕が昔好きだった物を好きで、それを一生懸命僕に伝えようとしてくれる姿が、愛おしくて仕方ない。
「私も嬉しいです!」
はいっ!と片手を挙げてにっこり笑う乱太郎に、心が温かくなる。
(このこはどうしてこんなに可愛いのか)

「僕たち気が合うね」
「はいっ!」
クスクスと笑って、君と過ごすこの時間が、本当に幸せだ。

ふと視線を上げると、こちらを見ているもう一人の僕がいた。
僕の姿に変装している鉢屋三郎だ。

最近鉢屋は、僕の姿にばかり化けている。
理由を聞いたら「何と無く」と曖昧な理由でごまかされたのは最近の事だ。

そんな事を一瞬考えていると、乱太郎くんが本を抱え直し「それではお借りしてきます!」と、僕に背を向けカウンターの方へ歩いて行った。
当然乱太郎くんの行く先には、こちらを眺めていた鉢屋がいるわけで…

僕の姿をした鉢屋を見た乱太郎くんが一瞬ぴくりと体を強張らせ、ゆっくりともう一度こちらを見る。
「雷蔵、先輩…ですよね?」
僕を見つめる乱太郎くんの瞳は、不安と困惑を宿した今までに見た事のないものだった。

「僕は雷蔵だよ、あっちが鉢屋だから大丈夫だよ」
優しく笑えば、心底ホッとしたように微笑む乱太郎くん。

何故、乱太郎くんは鉢屋をこんなにも意識しているんだろう。
気のせいだろうか。
ただ鉢屋の変装にいつも驚かされているから…?

(それとも何か…)

またくるりと背を向けて歩き出す乱太郎くんの背を見つめながら思う。
鉢屋と一度だけ目が合った。
ニッと口の端をあげるだけの笑い方は、いつもの彼と変わらない。

乱太郎くんが鉢屋の前を過ぎる時、鉢屋が乱太郎くんを捕まえ肩を抱き顔を寄せて何かを話す。
何を言われたのか乱太郎くんは顔を真っ赤にして俯いた。


(…気に、入らない)

ずっとなんて、見つめていなければよかった。
僕は二人に背を向け、戻しかけの本を抱えて棚の奥へ歩きだす。
それらを床に置き棚に寄り掛かると、天井を見上げて小さく息を吐く。

最近、乱太郎くんはよく図書室に来る。
僕の姿をした鉢屋も、必ずと言っていいほど乱太郎くんのいる時間帯に姿を見せた。
鉢屋の好意はストレートだ。
あれだけ捻くれた性格の癖に、気に入ったものには、時間も何も惜しまない。
そんな彼が、今1番何にハマっているかなんて考えなくとも理解できた。



カリッ

最近、噛癖がついた。
気が付くと爪を噛んでいる。
治さなくては、とは思うが無意識なのだから仕方がない。

目を閉じると、耳鳴りがした。
だんだん、酷くなってる。

乱太郎くんと鉢屋の並んで話す姿が、頭から離れない。

カリッ、カリッ…

苛々、する。

カリッ、カリッ…

乱太郎くんに馴れ馴れしく触れる鉢屋に。

カリッ、カリッ…

鉢屋を意識している乱太郎くんに。

カリッ、カリッ…

ただそれを見ているだけの自分に。

カリッ、カリッ…ガリッ!

「あ…」

噛すぎた爪が割れて、鉄の味が口中に広がる。



耳鳴りは、まだ止まない。






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言い訳

前回の雷乱とネタ被ってるっていう←

本当になんていうか貧相な脳みそですみません。
表現力なくてすみません…。
不完全燃焼ですみませんー…(土下座

なんか、毎回書いてるうちにネタとして上げてた話と全然違う話になっていくミステリー←
はい、すみません…

雷蔵を何処まで病ませるか悩みどころです。
そろそろ乱ちゃんに何か仕掛けて欲しいですね!←