笑顔の裏の黒い感情



人を好きになるって、
もっと綺麗な事だと思っていた。




君に笑いかけられると、幸せで。
君に話しかけられると、幸せで。
君を見つけるだけで、僕は幸せな気持ちに包まれて、いれたのに。


｢乱太郎くん｣

本を借りて図書室から出ていくところだった乱太郎を呼び止める。
｢あ！雷蔵先輩！｣
にっこりと満面の笑みで振り返る君に名前を呼ばれると、胸の奥がじわりと温かくなる。

｢呼び止めちゃってごめんね｣
｢いえ、どうしたんですか？｣
理由は君と話したかったから。
君が図書室に入って来た時から、君に声を掛けるタイミングを伺っていたから。

なんて、言えない。

｢前に探してた本、見付かった？｣
｢あ、あの薬草の本ですか？｣
｢うん、それ｣
｢いえ…結局見付けられなくて｣
少し困ったように笑いながら君が話す。

｢ならよかった｣
多分ちゃんと笑えてるけど、僕はわずかな緊張に左手を握る。

｢？｣
｢はい｣
後ろに隠していたその本をすっと君へ差し出す。

｢あ！この本！｣
｢この前、本棚を整理していたらジャンルの違う棚に入っていたのを見付けたんだ｣

よかった、凄く驚いてる。

｢こっこれ！｣
｢うん、よかったら借りていく？｣
｢はいっ！｣

凄く喜んで、くれてる。

｢雷蔵先輩っ！ありがとうございますっ！！｣
｢どう致しまして｣

君に喜んで貰える事が、こんなにも僕の心を満たす。



｢実はこの本、前に伊作先輩が探していて、見付けたら一緒に読む約束をしていたんです｣



君は笑う。
無邪気に。

｢そう、なんだ｣

にっこりと、友人いわく人当たりの良い笑みを張り付けて、僕は君の頭を撫でる。

｢早速お借りして、伊作先輩に言ってきます！雷蔵先輩が見付けてくれたって｣

乱太郎の話している声が、少し遠くに聞こえた。

(そうだ、まだ一年生の乱太郎がこんなに難しそうな本を探しているのは少し不思議だった)
(六年生の先輩が絡んでいたのか)
(これから乱太郎は善法寺先輩とこれを読むのか)



あぁ…見つけるんじゃなかった、かな。



｢…ぱい？先輩、雷蔵先輩！｣

君に名前を呼ばれてハッとする。

｢大丈夫、ですか？｣
｢…うん、ごめんね、大丈夫だよ｣

僕は今、ちゃんと笑えているだろうか。

｢ほら、図書室閉まっちゃうから借りておいで｣
｢はい！｣

乱太郎が笑って返事をしてくれたから、きっと笑えていたのだろう。

苦しい…
胸が苦しい。

君を想うと幸せなのに。
君が笑うと幸せなのに。

君が誰かに笑いかけたり、誰かと一緒に過ごすのは、



吐き気がする程嫌なんだ。



でも僕はそれを君に伝えるなんてできなくて、思いを打ち明けることすらできなくて。
ただ君を想うこの気持ちだけが際限なく僕の中で膨らんで…


ギリッ…


強く噛み締めた奥歯、
口内にじわりと鉄の味が広がった。



終

…………………………
言い訳

黒雷凄い好きって一昨日気付きました←

鉢屋より雷蔵の方が病んでる推進です。
いつもニコニコ人当たりが良い分…ね。
凄く楽しいです！←私が

短文不完全燃焼で申し訳ありません←いつもだよ(土下座

此処まで読んで下さってありがとうございました！