新月の夜に



※年齢操作未来捏造です。
苦手な方はご注意下さい。













































今夜は月が無い。
風もない。

誰もが寝静まったそんな夜。



僕は初めて人を殺めた。





「ハァッ…ハァッハァッ」
動悸が止まない。
さっきまで生暖かくぬるついていた手の平は、渇いて指の動きを鈍らせる。

忍務は暗殺。
無事成功だ。

追っ手も無い。
明日の朝まで身を潜め、城主へ報告を済ませれば忍務完遂だ。

しかし先程までの緊張感や、他人の命を奪った罪悪感や、それよりもなによりも理由のわからない焦燥感を僕は持て余していた。
出来るかぎり安全に身を潜められる場所を探していたはずなのに、気が付けば四年前に卒業した学園の前まで来ていた。
隠れるのには決して向いていない。
ましてや今僕は返り血に塗れたこんな姿で…。

しかし僕は一瞬の戸惑いの後、学園へと侵入していた。



気配を消し、高まり過ぎた気を鎮めようと裏庭の木々の間に隠れる。
長居をしてはいけない、どんなに気配を消してもこの血の量だ、気付く者がいるかもしれない。
そう思い、では何故自分は此処へ来たのかと…一瞬考えた。
しかし直ぐにまた考えることを止める。
今は何を考えても纏まりそうにない。

カサッ

(しまった…!)

誰かが近付く気配に僕は身構える。
学園で下手な騒ぎは起こしたくはないが、こんな形では誰と会っても騒ぎになるだろう。

…本当に、何故僕は此処へ来てしまったんだろう。



「…誰か、いるんですか?」

声を掛けられてどきりとする。
それは焦りではなかった。
聞いたことのあるような、懐かしい声に。
卒業して四年も経っている。
僕が在学していた時の後輩なら一年か二年だった生徒だろうか。

鼓動が早くなる。
治まりかけていた焦燥感がまた急速に僕を追い立てる。

カサッ

「あの…っ」
相手が更に一歩を踏み出した所で、僕は飛び出し相手を後から羽交い締めた。
「んんっ…っ!!」
声を出されては困るため、口元を右手で覆う。
僕の手にこびりついた血の臭いに相手が息を飲むのがわかった。
「動かないで、大丈夫、別に悪さをしようと思って来たわけじゃないんだ…頼むから大人しくしてくれ」
「…」
抵抗らしい抵抗もしないそのこに僕は少々拍子抜けしたが、騒ぎにならないのであれば、それに越したことはない。
そっと口元から手を離すと、相手が大きく息を吐いた。

顔を見られては困ると思いながらも、僕の方が相手が気になってしまい、向きを変え相手の顔を窺い見る。

「…乱太郎?」
驚いた顔で僕を見つめていたのは、昔同じ保健委員に所属していた乱太郎だった。
今はおそらく五年生になっているだろう、あの頃に比べれは背が大分伸びていた。
しかし彼を包む雰囲気は昔と何も変わらない。

(だからか…)

乱太郎を羽交い締めてから、自身の張り詰めていた気が治められていたのに気が付く。

「…伊作、先輩?」
あさらさまにホッとした表情をした乱太郎に、少し警戒心が足りないと注意したくなるが、今僕はそんな立場ではない。

「あの、怪我…してるんですか?」
「…いや、これは」
言葉を濁す僕に、乱太郎はそれ以上何も言わなかった。

「乱太郎は…こんな所で何をしていたんだい?」
不法侵入の僕が言う事じゃないな…と言ってから気が付いた。
どうにも乱太郎のこの雰囲気にほだされてしまっているようだ。

「えっと…今日は保健委員の夜間当番なので…」
乱太郎は少し困ったように笑う。
そう言えば、すぐそこが医務室だったことを思い出した。

しかし未だに保健委員なのか…と不運委員長と呼ばれた自身の過去と重ね合わせ思わず笑みが漏れる。

(委員会か…懐かしいな)
楽しかった昔を、少し思い出した。



今日は本当にどうしたのだろう。
感傷に浸ったり、随分と気が滅入っているようだ。
頭の片隅でそう思いながら、僕は乱太郎の柔らかい髪を撫でる。
二、三度撫でられて乱太郎は髪をすく僕の手を取る。
包まれた自身の手の平に、こびりつき赤黒く変色したそれが目に入る。
(忘れていた、こんな手で撫でてしまった…)
「…ごめん」
僕の謝罪に、乱太郎は僅かに首を振る。
見上げる瞳は優しく、少し眩しく感じた。
トクンと、胸が鳴る。



「おかえりなさい」



そう言われてまた微笑まれ、僕の中で何かが弾ける。
僕はいつの間にか乱太郎を抱きしめていた。
おかえりなさい、と。
その言葉の温かさに、胸が苦しい。

学園を卒業してから生きて来た外の世界は、酷く醜く毎日が争いや裏切りに満ちていた。
思えばここ最近は声を出して笑うこともなかったかもしれない。
忍務も血生臭いものが増え、今日は初めて直接人を殺した。
人を救う事に使命すら感じていた僕が…。

出来ることなら、乱太郎にだけは知られたくなかった…のかもしれない。
でもきっとこのこは気付いてしまっただろう。

今度は胸がズキンと痛む。

僕は強く、ただ強く乱太郎を抱きしめた。
乱太郎は僕の背に手を伸ばし、優しく優しく撫でてくれた。

「伊作先輩に、怪我が無くてよかったです」

耳に響く乱太郎の優しい声に、胸が苦しくなった。

僕は怯えていたんだ。
無意識に君の温もりと優しさを求めていたのに、同時に汚れのない純粋の象徴であった君に拒絶されることを。



あぁ、君の優しさに溺れてしまいそうなんだ。
こんな愚かな僕をどうか許して。


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び…微妙ですみません…←いつもだよ!
何が書きたいのかさっぱりですね!
心がどうしようもなくギスギスした時って、無意識に安心出来る場所を求めてしまって、伊作にとってそれは乱太郎なんだけど、伊作は自分のそんな感情を少し後ろめたく思っている…感じで←わかりづらい!(土下座

拍手で伊作の一人称を教えて頂いたので早速使用させて頂きました!
本当にありがとうございました(^-^)

此処まで読んで下さって本当にありがとうございました!