無自覚恋慕



銭が好きだ。
銭稼ぎも好き。
タダとかお宝とかお得とか、大好きだ。

だけど1番好きなのは…



四限目が実技の授業でしかもマラソンで、昼飯はしっかり食べて、昼休みは犬の散歩のバイトして、今はぽかぽか陽気の五限目で、内容は忍術の歴史について。
土井先生の授業は楽しいけど、こんだけ条件が揃ってれば眠くならないはずもない。

うとうとしかけるのをなんとか堪えて隣を見た。

おぉ、しんべえはアウトだな。
すでに机とおでこがくっついてる。

乱太郎は…はは、頑張ってる頑張ってる。
俺と同じくうとうとし始めてる。

可愛いなぁ…ってなんでか最近よく思う。

乱太郎は凄いいいやつだ。
しんべえとか、は組の皆もいいやつだけど乱太郎は断トツ。

優しくてお人よし、面倒見が良くて不運だけど真っ直ぐで素直。
ある意味俺とは正反対の性格。

でも乱太郎の事を嫌だと感じたことはない。



俺は乱太郎が好きだ。

乱太郎の隣は温かくて幸せ。

今まで必死に生きてきて、金が俺の全てだったのに、乱太郎は俺を変えてしまった。
どんな汚れた仕事でも危険な仕事でも、見合った報酬があるならなんでもしてきたのに…

「きりちゃん…それしたら友達辞めるからね」

乱太郎にそれを言われると、俺はどんな儲け話にも手出しできない。

銭稼ぎ < 乱太郎。



銭が好きだけど。
銭稼ぎも大好きだけど。
貰うとかおごりとかタダとか金とか大好きだけど。

乱太郎が1番好き。


「問三、きり丸!」
「へっ!?」

突然土井先生に名前を呼ばれて前を見れば、腰に手をあて眉毛をひくひく怒りに震わせている先生がいた。

「はは…」
「はは…じゃない!授業を聞け授業を!!!」

もう怒ってんのか呆れてるのか泣いてるのかわかんない先生はいつものことで、もう一度隣を見たら、いつの間に起きたのかしんべえが笑っていた。
その隣で乱太郎も笑っている。
乱太郎の笑顔が眩しくて、俺は目を細める。

乱太郎が笑ってると、幸せだ。



…好き。

好き。

大好き。

乱太郎が大好き。





次第に大きくなっていく好きの意味を、俺はまだきちんと理解していなかった一年のあの日。



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言い訳

ん!イミフ!土下座

きりちゃんが乱太郎への好きの意味を自覚する少し前。
どうでもいいけど土井先生不憫すぎる。

読んで下さってありがとうございました!